ドクトル・ジヴァゴ
売れないモノはいらない?
もうからない文化はいらない???



未知谷から工藤正廣氏訳でパステルナークのノーベル賞作品「ドクトル・ジヴァゴ」が刊行された。
工藤正廣氏は町田純の作品をいち早く認めてくださったロシア文学者、詩人、北大名誉教授、パステルナーク詩集の訳者。「ドクトル・ジヴァゴ」のあとがきでも、町田純に言及してくださっている。
町田純が生きていたら、詩集に続いてこの小説の装丁もしていたかもしれない。

750ページ、8000円。厚くて重たい。だから少し高い(中身の価値を考えなければ)。それを理由に取次会社が配本を拒否したそうだ。出版された本は取次会社を通して日本中の書店に配本される。パステルナークの全作品の翻訳達成という記念すべき本が書店に並ぶことさえ出来ない!

ソ連では共産党のイデオロギーに合致しなかったために出版できなかった「ドクトル・ジヴァゴ」は、今、日本で資本主義の論理(もうからないものは、いらない)で流通を拒絶されている。
もうからない本を作り続けている出版社は、もうからない以前に、売ろうとすることさえ出来なくなった。
「わが妹人生」 工藤正廣訳 町田純装丁  「ドクトル・ジヴァゴ」 工藤正廣訳

「ドクトル・ジヴァゴ」はロシア革命の時代を生き抜いたジヴァゴとラーラたちの波乱の物語だが、同時にその時代を生きた人々の生活誌ともいえる側面があるそうだ。この側面にも目を向けて訳されたのは今回が初めてであろう。

まだ読書途中。毎日わくわくしながら驚嘆しながら読んでいる。
余計なものがない簡潔な表現なのに、何と豊かに状況を描写していることか! 映像的ともいえる文章。映画にもなったが、原作から立ち現れる映像的世界の方が生き生きとして繊細でドラマティックで、比較にならないくらい面白い。かなり強引に言えば、ヤンの映像的世界の方が近いかもしれない。

例えば、P.22〜23の崖からの眺めの記述を読むと、ヤンの小屋からの川の眺めを思い出す。あるいは「草原の祝祭」でヤンが崖の上から見る線路と列車を思う。
P.25、列車が駅に停車した時の乗客たちの情景と低く斜めに差し込む夕日の光は、名無しのロマンチスト氏とリリが辿った列車の旅を彷彿させる。

町田純が読んだら、どんな感想を持っただろう?「パステルナークにはかなわないなァ!」と言っただろうか? それとも「ボクの作品も満更でもない!」と言うかな?

訳者の工藤正廣氏は、「ドクトル・ジヴァゴ」を詰め込んだリュックを担いで北海道中を行商に歩いているそうだ。
書店に注文 or 未知谷に注文 or 図書館にリクエスト……etc.
是非読んでください。

          2013.4.2       by Mariko Machida


ヤンとシメの物語 P.56
草原の祝祭 P.39
行商のミヤマガラス
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