9. 'RUKE' 
DARKO RUNDEK & CARGO ORKESTAR


Ruke (4.9MB mp3 )

ここ数週間、いくつかのメロディーが頭のなかを駆け巡っていて、離れない。
ダルコ・ルンデクがカーゴ・オルケスタルをバックに歌っている曲だ。
旧ユーゴスラビア、クロアチアのザグレブからすごいミュージシャンが出てきた! 
ダルコ・ルンデクは劇場監督、作曲家、詩人、俳優、歌手としても有名で、1980年代には新しいロックのリーダーとして絶大な人気を博していた、そうだ。一時のデヴィド・ボウイのように化粧してツッパッテいる写真がある。この頃、どんな音楽をやっていたかは分からない。
しかし、RUKE(手)と題されたこの CD のルンデクは、ちょっと投げやりで、やるせなく、少し不良っぽい優しさで………今の気分にピッタリなのだ。
いや、そんなルンデクの音楽で演じられるコメディー (ドラマ) が今の気分にピッタリなのだ。

さあ、ダルコ・ルンデクと、世界半周の船旅にでよう。
大きな古い船に乗って。でも、客室の中でも、デッキの上でもない。船の底の、一番下の船室。気が付くと、慰めるような付きまとうような音が聞こえてくる。それが、カーゴ (船荷)・オルケスタル。

水滴、嵐の音、馬の蹄の音、金属音、倒される人。

幼年時代の思い出。コミュニズムの時代の灰色の建物は、色鮮やかなコマーシャリズムに覆われてしまった。そうだ、キューバへ行こう。大きな広告板のない所、飢えて死ぬ人のいない所、デモクラシーのない所。
ハバナのホテルでラジオから聞こえるのは、アルメニアの局 ? マケドニアの局 ?
官能的な祝祭の夜々。
遠く離れたヴェネツィアの広場。子供達の声、カンツォーネ。嵐が来る。電流を含んだ空気。リルケが住んでいた。どこに ? いつ ? ザグレブの青春時代。ボタンホールにライラックの花をさして、川とキャンプファイアーとギターと女の子達。フェリーニの魔術のクルーザーのデッキで舞踏会が開かれる。ソンブレロをかぶったメキシコ人のバンドが歌う。
だが、雨の街に秋が戻ってきた。さびれた大通りを夜遅く散歩しよう、君と私で。濡れた屋根の上を裸で浮かぶ。

私は、落ちている ?
出発するのか、もう着いたのか ?
もしレールをはずれる勇気があれば、何か他のことがある。
バイ、バイ、バイ、バイ、

エンジンが止まり、足音が聞こえる。大きな港に着いた。人の声、子供の笑い声、カモメたち………

これで、私たちの船の旅は終わる。
いつまでもカーゴ(船荷)の旅を続けていたい気がする。甘美な思い出と、故郷を永遠に失ってしまった喪失感と、夢想と幻想。ヨーロッパの洗練と、バルカンの複雑と豊かさと、パリに集まるアラブやアジアのワールド・ミュージックの片鱗と、夢見るようなラテン・アメリカ音楽のまどろみと………ダルコ・ルンデクの後ろで絶妙な効果を醸しだすオルケストラは、時々ダルコの横に並んで共に演じ、時折は前に出て来て主役を演じる。

しかし、今は船を下りよう。
レールをはずれる勇気があれば、何かがある?
世界がわたしを拒絶したら、そんな時は、ダルコ・ルンデクとカーゴ・オルケストラが”RUKE"を演奏してくれる。
「………手(RUKE)がある。君のために、演奏させて………」

Text by Mariko Machida, 04/10


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