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モネイム・ウドワンの音楽は、不思議な明るさに満ちている。 ウドワンがガザのラファの町に住んでいることを知ると、少し分かったような気がする。ああ、これがレヴァント(地中海東岸)の明るさなのか!と。 パレスチナ自治区のガザは地中海に面してはいるけれど、その他は隔離壁に囲まれ、イスラエルの占領下にある。なかでもラファは毎日のようにイスラエル軍に侵攻され、ミサイル攻撃を受け、家屋を破壊された。 監視塔のイスラエル兵によって、通学途中の少女が狙い撃ちされ、サッカーをしていた少年が撃たれ、学校の教室に座っていた少女も狙撃され……たくさんの子供達が殺された。 |
CD"Nawah"のカヴァー |
アトランと鏡の中のウドワン |
”Nawah”と題されたCDは、セファラディーのフランソワーズ・アトランとの共演。
今のスペインの地イベリア半島にアラブ・イスラムの国が栄えていた時、ユダヤ人も共存し活躍していた。ここで生まれた音楽はアラブ・アンダルースの音楽と呼ばれている。 この地にキリスト教のスペイン王国が成立すると、アラブと共にユダヤ人も追放される。追われたユダヤ人は地中海諸国やバルカン、イスタンブールなどに向かった。このスペインを追われたユダヤ人がセファラディー(スファラディー)と呼ばれる。 アトランの澄みわたった美しい声と、ウドワンのウードと変幻自在の歌声が、パレスチナ、セファラディー、アラブ・アンダルースの伝統から生まれた曲を、アラビア語、スペイン語、ヘブライ語で歌う。 「最も美しい調和は差異の結実である」と、ヘラクレイトスは言ったそうだ。 地中海の西から東へ、地中海を東から西に、明るい風が吹きわたる。 |
"愛の陶酔"のカヴァー |
ウドワンと「真珠採り」のグループ |
”愛の陶酔”は、イラク出身のモハメド・アルヌマ率いる「真珠採り」というグループとの共演。モハメド・アルヌマは、ヨーロッパでジャズを学んでいたが、自身の音楽的ルーツをペルシャ湾の真珠採りに見いだし、「真珠採り」を結成。南フランスで活動している。
アルゼンチン系ユダヤのフランス人やイラン人など多様なメンバーが、クラリネット、サックス、チェロ、アコーディオン、ネイ、ブズーキなど多彩な楽器を演奏する。 ウドワンとアルヌマのウードと歌でパレスチナとイラクが出会う。 東から西へ、イラクとパレスチナからヨーロッパへ、そして世界に、明るい風が吹きわたる。 Text by Mariko Machida 2005/6 |