10. モネイム・ウドワン
MONEIM ADWAN
パレスチナの歌手・ウード奏者


ウドワンと鏡の中のアトラン


ウドワンと「真珠採り」 mp3 (1.3MB)

                             

モネイム・ウドワンの音楽は、不思議な明るさに満ちている。
穏やかで、のびやかな明るさ。
底抜けの明るさではない。悲哀を包み込んだ明澄。

ウドワンがガザのラファの町に住んでいることを知ると、少し分かったような気がする。ああ、これがレヴァント(地中海東岸)の明るさなのか!と。

パレスチナ自治区のガザは地中海に面してはいるけれど、その他は隔離壁に囲まれ、イスラエルの占領下にある。なかでもラファは毎日のようにイスラエル軍に侵攻され、ミサイル攻撃を受け、家屋を破壊された。

監視塔のイスラエル兵によって、通学途中の少女が狙い撃ちされ、サッカーをしていた少年が撃たれ、学校の教室に座っていた少女も狙撃され……たくさんの子供達が殺された。
ラファのウドワンの音楽は、やはり奇跡だ。




CD"Nawah"のカヴァー


アトランと鏡の中のウドワン

”Nawah”と題されたCDは、セファラディーのフランソワーズ・アトランとの共演。

今のスペインの地イベリア半島にアラブ・イスラムの国が栄えていた時、ユダヤ人も共存し活躍していた。ここで生まれた音楽はアラブ・アンダルースの音楽と呼ばれている。

この地にキリスト教のスペイン王国が成立すると、アラブと共にユダヤ人も追放される。追われたユダヤ人は地中海諸国やバルカン、イスタンブールなどに向かった。このスペインを追われたユダヤ人がセファラディー(スファラディー)と呼ばれる。

アトランの澄みわたった美しい声と、ウドワンのウードと変幻自在の歌声が、パレスチナ、セファラディー、アラブ・アンダルースの伝統から生まれた曲を、アラビア語、スペイン語、ヘブライ語で歌う。

「最も美しい調和は差異の結実である」と、ヘラクレイトスは言ったそうだ。
アラブとユダヤの差異は調和が可能な差異、調和している差異であることがよく分かる。少なくとも音楽の面では。

地中海の西から東へ、地中海を東から西に、明るい風が吹きわたる。
差異と調和の美しさ。夢のような美しさ。




"愛の陶酔"のカヴァー


ウドワンと「真珠採り」のグループ

”愛の陶酔”は、イラク出身のモハメド・アルヌマ率いる「真珠採り」というグループとの共演。モハメド・アルヌマは、ヨーロッパでジャズを学んでいたが、自身の音楽的ルーツをペルシャ湾の真珠採りに見いだし、「真珠採り」を結成。南フランスで活動している。

アルゼンチン系ユダヤのフランス人やイラン人など多様なメンバーが、クラリネット、サックス、チェロ、アコーディオン、ネイ、ブズーキなど多彩な楽器を演奏する。

ウドワンとアルヌマのウードと歌でパレスチナとイラクが出会う。
同様のルーツと同じような悲しみが、平和への信念と愛の希求をさらに強める。

東から西へ、イラクとパレスチナからヨーロッパへ、そして世界に、明るい風が吹きわたる。
多彩と調和の美しさ。夢のような美しさ。

Text by Mariko Machida 2005/6


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