ポッかり洞(ほら)穴。でも不思議なことに一筋の光線が。天井を見ると、穴が開いている。その光線が青ネコの片耳を斜めに切る。青ネコはリュックを下ろす。中から懐中電灯とカンテラ。
 こうして先頭の青ネコは懐中電灯と、しんがりの赤ネコはカンテラと、前進を開始した。
 足元は濡れている。それになんかベチョベチョする。泥。
 「蛇とかいない? 長いヤツ」赤ネコはもう意欲を失い始めた。
 青ネコは懐中電灯の光線
(ビーム)をやたらあちこちに当てる。思ったより天井は高い。何もいない。
 でも、と赤ネコは思った。何かいるに違いない。たとえばこんなとき、決まってコウモリがパタパタと飛び出す。それも何十、何百と。
 「なんかゾッとしない?」と赤ネコ。
 「別に」と青ネコ。
 再び懐中電灯の光を振り回す。暗箱を光が直進し、そしてその光線の残像が洞穴を埋める。光の直線の交叉。右、左、上、下。対角線。平行線。
 赤ネコのカンテラは、ぼっわとその後に従う。

 そのとき、青ネコの光線が天井の一点を照らしたまま止まった。
 「何?」ちょっと緊張した赤ネコ。
 青ネコは黙ったまま見つめている。
 赤ネコはカンテラを高くかかげる。「何かいる?」
 「別に」と言って青ネコはまた歩き始めた。

 緩い傾斜のまま少しずつ下っていく。思ったより歩きやすい。どんどん下る。天井ももっと高くなり、なんだか気持ちいい。
 どんどん下る青ネコ。たらたら歩く赤ネコ。
 青ネコの背中が岩陰に消えた。
 「オーイ」とちょっと大きい声を出す赤ネコ。すると、
 「……オーイ、オーイ」と、自分の声が返ってくる。
 「ウーン」「……ウーン」
 続けて赤ネコも岩陰のスキ間をくぐり抜ける。
 ポタリ。天井の岩から滴
(しずく)。カンテラをかざすと小さな白い突起の先に水滴が光る。鍾乳石だ、と赤ネコは心の中で叫ぶ。
 突然天井を光の線が走る。青ネコの懐中電灯だ。でも姿は見えない。「オーイ」「……オーイ、オーイ、オーイ……」とまた赤ネコの声がこだまする。
 「ココだよ」とすぐ近くから青ネコの声。
 「何処
(どこ)?」「……どこ? どこ? どこ?……」
 「だから、こっち」「……だから、だから、こっち、こっち、こっち……」
 「なんだ、そこなの……そこなの」
 「ウン」
 青ネコは懐中電灯を地図に当てて見ている。
 「で、どっち?」
 「ウン」
 「あっちかナ?」
 「ウン」
 「いや、それともこっち?」
 「ウン」
 というわけで、二匹はあっちへ向かった。
 鍾乳洞はますますその広がりと深まりの中へ彼ら二匹を誘い込もうとしていた。
 「ヒンヤリする」と青ネコ。
 ゾクッとする赤ネコ。
 ピチャ、ピチャ、ピチャと足元はあいかわらず冷たく濡れている。ポタンと滴が赤ネコの頭に当たる。弱気の風船が少しふくらむ。
 「で、ドーする?」
 「ドーするって、さっき自分で計画通りサ、って言ったじゃナイ」
 「ウン」
 二匹は前進を続ける。
 ポタッ。ポタッ。あちこちで滴が落ちる音。ポタッ、青ネコの頭。
 「冷たいナ」とあまり気にしない。
 更に進む。右左は石筍の林だ。天井からは長い鍾乳石が伸びている。青ネコの懐中電灯の光が次々と切断される。
 「なんか居そうだネ」と赤ネコ。
 「何が?」
 「ホラ、一生暗い所で暮らす目の無い白蛇とか、巨大な白ミミズとか……長いヤツ」
 青ネコは黙って前進する。赤ネコは小さくふくらんだ風船を石柱の先にブツけたり、糸を石筍にひっかけたりしながらタラタラ歩いている。
 オッと。とうとう糸が絡まった。ちょっと必死になる赤ネコ。なかなかほどけない。だって背中の上の方から出ているから、手が……。切っちゃえ。
 ヤレヤレ。さて、と、……青ネコの姿がまた消えた。カンテラが浮かび上がらせる石柱の隊列。ドーリア様式だ、と赤ネコは思った。石灰岩の回廊を進む。ピチャ、ピチャ、ピチャ。
 「オーイ」「……オーイ、オーイ、オーイ、オーイ……
 「ちょっと」「……ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと……」「待って」「……待って、待って、待って、待って……」「くれる」「……くれる、くれる、くれる、くれる、……」
 糸の切れた赤ネコの赤風船は高い天井に頭をブツけたままピクリともしない。どこにいるんだろう? 横穴に入ったのかナ? でもそんなはずはない。とにかく進んでみよう。ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ。オヤ? 行き止まり。赤ネコはまたまた新しい風船を用意した。
 で、それをふくらまそうとしたとき、正面に小さな丸い穴があいていることに気がついた。ハハン、ここだナ。洞窟探険につきもののシーン。腹這いになってくぐり抜ける所。すると向こうには大きな大きなだだっ広い、鍾乳石のシャンデリアが頭上に連なる宮殿があるんだ。ここは思い切ってもぐり込むしかない。でも、待てヨ……、この穴が長くて白っぽいヤツの巣穴だったら……。
 赤ネコはためらったが、一点を見つけてどんどん先を進む青ネコの姿が浮かんできたので、思いきってもぐり込んだ。青ネコを一匹にするのは危険だ。すぐに追いつかなきゃ。カンテラを頭で押しながら少しずつ這ってゆく。
 穴はあっけないほど短かった。そして穴の向こう側は、……
 パッとしない所だった。乳白色のシャンデリアもなければ、腰かけるのに適した石筍もなかった。ただ黒っぽい岩石に囲まれた洞窟が奥へ続いていた。
 「オーイ」あまり反響しない。地質が変わったと赤ネコは考えた。
 「オーイ」
 それにしてもやはり青ネコはいない。
 「オーイ」
 さては、青ネコは迷っているんだナ。こんな複雑な地形では地図も役に立たないだろう。何としてでも早く捜し出さなければ、青ネコは永遠に地底から出られない。
 「オーイ、今行くからー、そこを動くなヨー」
 「……」
 赤ネコは少しあせってきた。もちろん風船もふくらみ始めた。このまま前進すれば自分も迷うかもしれない。
 イヤ、ひょっとしてすでに迷っているのか? 結論。どちらかが迷っている。
 「オーイ、どこにいるのかナー? ボクはここだからー、オーイ」
 イヤな雰囲気。やはり……計画……見直す……べき……か……。

 足は泥だらけ。お腹のあたりも汚れている、赤ネコはベンチのような泥岩の上に坐りこんでションボリ。フサギの虫が顔を出す。
 〈……そもそも、人形が洞窟探険なんて……そういう発想が……
 間違っている。それに第一、絵本は文学じゃナイし、ブンガクは絵本じゃナイ。ファンタジー? そんなモノ本物の猫に喰わせろ。詩? 今ここにスコップがあったら、掘って埋めてやる。ブツ、ブツ……〉
 不安もますます増大する。風船は頭上で極限までふくらんだ、ホラ。

 
パン!

 瞬間赤ネコは身をかがめる。閃光が頭の中を走る。ドキ、ドキ、ドキ。ハートが飛び出しそう。そのとき、
 「今何の音?」
 青ネコが、今さっき赤ネコがくぐりぬけた抜け穴から顔を出す。
 「もしかして、またフーセン?」
 「ウン」
 「ヤレヤレ」
 
「ウン」
 「だから、そっちじゃなくて、こっち」
 「ウン」
 なるホド、再びくぐり抜けてみると、行き止まりじゃなくって、左手に鍾乳洞は続いていた。冷静になろう。赤ネコは深呼吸をした。
 再び二匹は前進を開始した。にょきにょきと立つ石筍は光を当てると不気味な容貌を浮かび上がらせた。
 「ゼウス神」
 「似てないヨ。もっと爺
(じじ)臭い」
 「あっ、メドゥーサ。いけない見ちゃった! 石にされる」
 「ウルサイね。そんなとこでひっかかって、また迷子になっても知らないから」
 青ネコはかまわずドンドン進む。また二匹の距離は広がり始めた。
 鍾乳洞の天井はますます高くなり、青ネコの懐中電灯の光もなかなか届かない。赤ネコのカンテラは自分を照らし出すだけ。
 「痛(イテ)……痛(イテ)、痛(イテ)、痛(イテ)……青ネコが石筍に頭をブツけたらしい。
 「ドーしたの、……ドーしたの、ドーしたの……」気持ちよく音が反響する。
 「別に、……別に、別に、別に……」青ネコはひるまずにドンドン進む。
 バサッ。赤ネコの後ろに天井から何かが落ちてきたような音。
 振り向いても何もいない。背中がゾクッとする赤ネコ。
 白くて長いヤツか、足がいっぱいあるヤツだったら……。またゾクッとする。
 「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ……」と思わず赤ネコ。
 「……」と反応ナシ。
 「オーイ、オーイ、オーイ、オーイ……」とまた赤ネコ。
 「なあに、なあに、なあに、なあに、なあに……」と遠くの方からやっとウンザリした青ネコの声。
 「あのネ、あのネ、あのネ、あのネ、何か、何か、何か、何か……いるヨ、いるヨ、いるヨ、いるヨ……」
 「エ? エ? エ? エ?……何? 何? 何? 何?」
 「だから、だから、だから、バサッ、バサッ、バサッ、て、て、て、て、音、音、音、音……」
 赤ネコは少し青ざめた顔をして、つまり結果として緑色っぽくなっていたけれど、カンテラのオレンジの光の中では注意深く見なければわからないだろう。
 「……」
 「オーイ、オーイ、オーイ、オーイ……」
 「……」
 「オーイ、オーイ、オーイ、オーイ……」
 「……なーに、なーに、なーに、なーに……」
 「ちょっと、ちょっと、ちょっと、待ってて、待ってて、待ってて、待ってて……」
 「……エー? エー? エー? エー? エー?……」
 「だから、だから、だから」「……エー? エー?……」「だから、だから……」

 二匹の声が洞窟の壁や天井や床に乱反射を繰り返す。
 
「今、今、今、何? 何? 何? 行く 何?から、何? から、から」
 
「そこに、そこに、……だから、だから、いて、いて……エ? エ? 何? 何? 何? ……だから、そこに、そこに、そこに、……」
 「アレ? アレ? アレ? ……オーイ、オーイ、オーイ……何だこれ? 何だこれ? 何だこれ?……オーイ、オーイ、……どっち? どっち? どっち? どっち?……」
 
「ウン、ウン、ウン……オーイ、オーイ、……どっち、ウン、ウン、ウン、……こっち、こっち、こっち、こっち」

 ハーハーハーと赤ネコの息は少し荒い。早く、早く、早く、ここを離れないと、早く、早く。
 
「オーイ、オーイ、どっち、どっち、……ウン、ウン、……こっち、こっち、こっち……」
 
「どこ、どこ、……ここ、ここ、……どこ、ここ、どこ、ここ、ここ、ここ、ここ……」
 後ろを振り向けない赤ネコ。とに角、進め、前へ。
 
「オーイ、オーイ、オーイ、……なあに、なあに、なあに、……オーイ、なあに、……」
 
「どこ? どこ? どこ? どこ? だから、だから、どこ? どこ? だから、、ここ、ここ、ここ、だって、だって、ば、ば、ば、ば……」
 
「そう、もう、もう、少し、少し、少し、だから、だから、待って、待って、待って、そこを、そこを、そこを、動か、動か、動か、ナイ、ナイ、ナイ、……」

 「……」突然青ネコの応答が途絶えた。
 「オーイ、オーイ、オーイ」
 「……」
 「オーイ、オーイ、どーした、どーした、どーした、の、の、の、の の……?」
 「……」
 そういえば、不安の風船。きっと丸々とふくらんでいるんだろう。
 でも後ろを、背中すら振り返って見る勇気はない。あいつがしつこくくっついて来ていたら……。
 足のいっぱいあるヤツ、イヤ、白くて長いヤツかもしれない……。
 「オーイ、オーイ、オーイ、そこを、そこを、そこを、そこを、動く、動く、動く、な、な、な、な、ヨー、ヨー、ヨー、ヨー……」
 「……」

 間違いなく青ネコに何か異常事態発生だ。急げ、急げ。
 「今、今、今、行く、行く、行く、から、から、から、から、ガンバレー、ガンバレー、ガンバレー……」
 乱立する石柱の間を駆け抜け、ポタッと滴が顔に当たっても構やしない。だってそれどころじゃナイんだ。事態は明らかに悪い方向に向かっている。カンテラが大きく揺れる。洞窟もその揺れる光で船酔いだ。
 「オーイ、オーイ、オーイ」
 「オーイ、オーイ」あまり響かない。

 突然前方に何かとても明るい白色光。
 何だろう? ドキ、ドキ、ドキ。そうだ、冷静になろう。赤ネコは深呼吸した。光に向かって今度はゆっくり歩いてゆく。それでもドキ、ドキ、ドキ。もう一度深呼吸。でもやっぱりドキ、ドキ、ドキ。
 「
オーイ」大きな声が出ない。すると、
 「ウ〜ン」そう! 青ネコの声だ。みるみる、赤ネコの顔が緑から元の赤に戻っていく。
 「オーイ、今行くからー」
 「ウ〜ン」

 赤ネコは駆け出そうとしたけれど、ちょっと待てヨ。冷静になろう。あの声の様子はなんかのんびりしている。ということは、あまりあせって駆けつけない方がイイ。なぜかって、あせっているところを見られると、あの目でジロッとされちゃう。そして「ドーしたの?」と聞くと「別に」って言うに決まっている。そう、だからここはゆっくりと歩いていこう。やっぱり冷静になってよかった。

 ピタ……、ピタ……、ピタ……と赤ネコは白色光に一歩一歩近づく。緊張のためか足がこわばる。歩き方が少しぎこちない。つまり、いかにもお人形風なのだ。あそこに待つのは、とてつもない恐怖か? それとも神秘的な、あるいは形而上学的な体験か?
 でも、二匹のネコのお人形以上に超越的な存在者が、この洞窟に果たして居るのか? 超越的なモノが更に超越的な存在に乗り超えられる瞬間を我々は目撃するのだろうか? それはどのようにして? そして、そもそもそのような事が論理的に可能なのか? 絶対者の上に絶対者を築くこと……。
 鍾乳洞は進むに従い、急にせばまってきた。ちょうど転がったガラス壜の中を、壜のくびれた口に向かうように。その口から発する白色光が赤ネコの瞳を針穴にする。他には、……何も見えない。
 今や赤ネコも白色の発光体だ。構わず進め、勇気を出して。ほぼ赤ネコと同じサイズの穴をくぐり抜ける。
 ぽっかり。
 元気を出したカンテラの灯が小刻みに揺れる。
 柱状の光。それは高い高い天井の穴から、わずかな傾斜角で差し込んでくる。
 柱状の白色光。深く沈んだプルシャンブルーの池。じっと見つめているとダークグリーンに変わる。
 ポチャンと滴の落ちる音。ポチャン。規則的。ポチャン。
 突然赤ネコは意識が遠のくのを、おぼろげながら自覚した。イケナイ!
 でも、要するに、急に、眠く、なった……。これは、何か、神秘的な、な、力、の、なせる、業
(わざ)、なの、か……。
 いや、ただ単に、疲れただけだった。
 「地図にないんだ」と青ネコのボソっとした声。「ひょっとすると、これは地底湖の入り江なんじゃないかナ」ほとんど威力を失った地図に懐中電灯をあてながら、青ネコの想像力は深みを増す。
 「エ? ウン」
 「多分、ここいらあたりだと思うんだけど、……地図にないんダ」
 「ウン」赤ネコはぼんやりと光の柱を見つめていた。
 「で、ドーする?」と青ネコ。
 「ウン、……だから……計画通……り……サ」と気のない返事は赤ネコ。
 「ヨシ、前進だ」と青ネコの決断は早い。
 「ウン、でも、行き止まりじゃないの? ここで」
 「イヤ、残念ながらっていうか、幸運なことに、右手に見える穴をくぐり抜けると、この入り江に沿った細い道のようなヤツが先へと続いているんだ。そこを進めば大地底湖の岸辺へ導かれると思うネ。さっき調査したから」
 「フウン。その大地底湖に何か居るかな? デッカイやつとか……」
 「まあね。行ってみなきゃわからないサ」
 「……ウン……」
 こうして二匹は先へと進んだ。池に沿った台地状の道のような所を歩いていった。滑ったら大変。池の水は冷たく、どこまでも深そうだ。
 緊張の連続で、赤ネコの神経はもみくちゃにされた。しかし、耐える赤ネコ。計画、計画を遂行すること。
 オッと。危うく滑るところ。カンテラの灯がグラグラと大きく揺れる。白色の柱はもう見えない。
 地底湖は現れなかった。あれは地底湖の入り江なんかじゃなくって、ただの池だった。青ネコは地底湖の幻想をとっくに忘れて、ただ前方の一点を見つめて進んでいた。一方赤ネコは、地底湖に潜む巨大獣、つまりアカネコドンとか、アオネコ竜といったヤツに遭遇しなかったことに、建前としては残念だったが、本音はホッとしていた。
 鍾乳洞は緩(ゆる)い勾配で上へ、つまり地上へ向かっていると赤ネコは感じた。と同時に、とても気分が軽くなるのを感じた。
 後ろを振り返ってみる。もちろん風船はナイ。そして洞窟の奥深く取り残された数々の冒険、スリル、恐怖……。ブルッ。
 赤ネコの身震い。たまたま運が良かったのか? 白くて長いヤツや足がうじゃうじゃあるヤツ、それに巨大獣……、みんな寝ていたのか? まあいい、終わったことだ。とにかく、計画が……。

 オッと。青ネコにブツかりそうになる。なんだ、もっと先を進んでいたはずなのに。カンテラの橙色の光に照らされても、青ネコの顔は心なしかさらに青ざめていた。疲労のなせる技? それとも徒労?
 「ドーしたの?」
 「ドーもコーもないヨ」
 「何が?」
 「だから……」
 「何?」
 「見ての通りサ」
 「ウン」
 「で、ドーする?」
 「ウン、だから、計画通り!」とすっかり元気な赤ネコ。
 「エ?」
 「ソー、計画通り!」
 「どうやって?」
 「エ? 何で?」
 「だから、見ての通り。行き止まりでしょ」
 「ア! ウン……」
 希望の後には絶望。光の背後には闇。
 「仕方ナイ、引き返すか」と青ネコの決断はす早い。リュックを背負い直して、後退! タピ、タピ、タピ、タピ。
 少し進んで振り返ると赤ネコはまださっきの地点に立ったまま。大きな赤風船が背中から糸でつながり、天井の岩盤に触れそう。
 「風船
(フーセン)ふくらませないで、早く! サッサと帰ろう」
 「……ウン……」
続く
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