善良なネコ
その市場のはじっこの屋根からはみ出したあたりにーここは新参者が店を出すところー樺の木の皮で編んだ籠ばっかりを売っているネコを見つけた。
ある秋も深まった一日、ボクはピロシキをたくさん焼いた。
 手提げの編み籠に新聞紙を敷いて、ゆるんだ編み目から落ちないように注意しながら、あの市場の籠売りのネコとハトやネズミや小ネコやらが一緒に棲んでいるという建物に向かった。
屋根に雪ののったアパルトマンはそれなりに立派だった。
 雪は貧しいモノを美しく飾り、富んだモノをみすぼらしくする。
……ボクが背にしたドア、つまり通路の右側の最初の部屋の奥から、モーツァルトのトルコ行進曲を投げやりに弾くのが聞こえてきた。
戸を開けると、投げやりなピアノはまだ続いていた。今度はニ長調のウンザリするソナタだ。
「どうかしたの?」
「うん、あのネ、死んじゃったから」
 ドアのすき間から物哀しいドゥドゥクの音色が漏れてきた。
 「誰か吹いているね」
 「そう、この前越してきた人だと思う.コーカサスの方からだって」
「……あ、それから、これ大きなネコさんが使うといいから」と灰色ネズミはテーブルの下から手提げ籠を一つ取り出してボクに渡した。
目の前の売店ではバラが咲き乱れ、スズランが緑に没していた。
柘榴石や紅玉髄やラピスラズリのような貴石で飾られた銀の装身具が、赤いビロードの布の上に無造作に並べられていた。どの石も深くくすんで、その色彩に沈んでいた。
ボクはどうしても触れてみたくなる。そっと手を伸ばす。
 すると埃だらけのカフタンを着て四角い帽子を被った、日焼けした坊主頭が黒い髯をいじりながらジロッとにらむ。
その木の下に何やら露店が出ていて、広げられた大きな布の上に壷や皿が所狭ましと並べられていた。
そう、大丈夫、籠はまだ保つだろうと、ボクは自分に言い聞かせてから、口笛を吹きながら歩き出した。
 どんな曲を?
 あの投げやりなトルコ行進曲。
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