ぼくらはふたたび草原をブッ飛ばしていた。 ハンドグリップを握りしめて、空を見上げながら赤ネコが言った。 「オッと」ブリヤン草の茂み。パサパサ車体をなでる草の波。 「左前方に浅い穴!」 「右前方に深い穴!」と赤ネコがまた叫ぶ。 |
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「オーイ、ただのありふれたモグラくーん、また掘りすぎちゃったのかナー?」 「……シ……ク……シ……ク……」 「?」 「だれかいるのかナ〜?」 「……エ……ン……エ……ン」 「?」 「どうも変だナ」 赤ネコが腕組みをしようとする。でもできない。 「ウン……」青ネコは首のリボンの端のほつれを気にしている。 「ただのモグラじゃないナ、これは」 「……ウン……」 リボンの端が少し切れた青ネコは、ちょっと元気がない。 「問題は、とにかく何かいるってことなんダ」 「……ウン……」 赤ネコが這いつくばって穴の底に叫ぶ。 「オーイ、だれかいるのかナー?」 |
もうすっかり手慣れた二匹は梯子をおろして、伸ばして、ソロソロ穴に入れる。 よし! 底に届いたゾ。 |
「ウーンと、だいぶ以前のこと、……森の中でリスの行列を見たんだ。きちんと並んで、続々とリスが小径を横切っていったんだ。先頭はエゾリス、耳の長いヤツだヨ、次がアカリス、茶色の毛だけどネ、そしてその次がちっちゃなシマリス。そしてまたエゾリス、クルミを抱えていた、それからまたアカリス、そしてドングリを抱えたシマリス。それから」と青ネコが話を続けようとすると、 「さっきから何をつまらないことを言ってるんだヨ、リスの行列がどうしたっていうんだヨ」 と泣き止んだ子供。 「そー、つまりこのリスの行列の二十匹目は何リスですか? というのが、ホーテーシッキみたいなのかナ」 |
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「バカだな、そんなの方程式でもなんでもないじゃないか。ただ順番に並んでいるだけなら、ただの割り算さ。リス三匹で一組にすれば、20÷3=6組…2匹 だから、その二匹目は、えーとエゾリスの次だから、アカリスさ」と、泣き止んだ子供は鼻高々。 「ネコの人形じゃあこんな問題もちょっと無理だろうけどネ」 「ウン、アノ、でもその時は二十匹目はハイイロリスだったんだけど……」と青ネコ。 「変じゃないか! エゾリス、アカリス、シマリス、の順だって言ってたじゃないか、ハイイロリスなんか出てこなかったゾ!」 「ウン、でも十二匹目からハイイロリスが並び始めたからネ。それで十三匹目は、確かキタリス……、十三匹目は太ったシマリスで、十五匹目はキノコをしょったアカリス、そして……」 「ウルサイやい! そんなのズルイゾ! ウソつき! 泣いてやる! エンエン、シクシク、キーキーキーッ……」 「ウルサイね。余計な話をするからだヨ」と赤ネコ。 「……ウン……」と青ネコはリボンの端を気にしていじりだした。 「そうだ、ちょっとイイ考えが浮かんだから外へ出よう」と赤ネコは青ネコに言った。 |
二匹は花の中を泳いでいた。 「イイネ」 空はこれ以上文句のつけようのないほど真っ青で、見上げるほどにぐんぐん濃くなってゆく。 |
「ヤレヤレ」穴のふちで赤ネコは空を見上げる。「全くいい天気だ」 それでも、湧き上がる地平の雲はその高度を上げた。 そしてその雲の後ろに、青と灰色を混ぜた重そうな雲が隠れていた。 北よりの風が弱く吹いてきて、赤ネコと青ネコの頬を撫でていった。 青ネコはリボンのほつれが広がっていくのに気をとられている。 いじればいじるほどほつれていく。 「行く?」と赤ネコ。 |
「ウン」と青ネコ。 そうと決まれば眼鏡(グラス)をかけて出発の合図だ。赤ネコはバイクにまたがりエンジンをかける。 ブルルルル……。青ネコはリボンをいじりながらサイドカーに乗り込む。 さあ行こう、出発だ!西へ向かって、あの地平の雲を突き抜けて。 エンジン快調。さあまたブッ飛ばせ。ブルルン、ブルルン、ブルルルルン……。 二匹はアッという間に走り去った。 |