ボクたちネコのお人形コンビ

草原の穴 その2

ぼくらはふたたび草原をブッ飛ばしていた。
西の地平線に湧き上がる雲は、激しい上昇気流と遊んでいた。
そしてちぎれた破片は積雲の連なりとなって、ポツポツと広大な空色の天井を埋めていた。

ハンドグリップを握りしめて、空を見上げながら赤ネコが言った。
「なんてでっかい空色の画布(キャンバス)なんだろう」

「オッと」ブリヤン草の茂み。パサパサ車体をなでる草の波。
かまわずブッ飛ばせ。

「左前方に浅い穴!」
でも、勢いでこのままブッ飛ばせ。ホラ、後輪が地面を蹴ったぞ。
穴とサヨナラだ。

「右前方に深い穴!」と赤ネコがまた叫ぶ。
さすがのネコのお人形も今度は慎重になる。ドドドドド。
穴に近づく。低速前進。ピッタシ停車。






「オーイ、ただのありふれたモグラくーん、また掘りすぎちゃったのかナー?」
「……シ……ク……シ……ク……」
「?」

「だれかいるのかナ〜?」
「……エ……ン……エ……ン」
「?」

「どうも変だナ」
赤ネコが腕組みをしようとする。でもできない。
「ウン……」青ネコは首のリボンの端のほつれを気にしている。

「ただのモグラじゃないナ、これは」
「……ウン……」
リボンの端が少し切れた青ネコは、ちょっと元気がない。

「問題は、とにかく何かいるってことなんダ」
「……ウン……」

赤ネコが這いつくばって穴の底に叫ぶ。
「オーイ、だれかいるのかナー?」





もうすっかり手慣れた二匹は梯子をおろして、伸ばして、ソロソロ穴に入れる。

よし! 底に届いたゾ。

ジャンケンもしないで、さっさと青ネコが先に降りて行く。
一刻の猶予もできないからだ。

落ち着け! でも急げ! 
穴の底は上より薄暗いけど見えないことはない。





「ウーンと、だいぶ以前のこと、……森の中でリスの行列を見たんだ。きちんと並んで、続々とリスが小径を横切っていったんだ。先頭はエゾリス、耳の長いヤツだヨ、次がアカリス、茶色の毛だけどネ、そしてその次がちっちゃなシマリス。そしてまたエゾリス、クルミを抱えていた、それからまたアカリス、そしてドングリを抱えたシマリス。それから」と青ネコが話を続けようとすると、

「さっきから何をつまらないことを言ってるんだヨ、リスの行列がどうしたっていうんだヨ」
と泣き止んだ子供。

「そー、つまりこのリスの行列の二十匹目は何リスですか? というのが、ホーテーシッキみたいなのかナ」

「バカだな、そんなの方程式でもなんでもないじゃないか。ただ順番に並んでいるだけなら、ただの割り算さ。リス三匹で一組にすれば、20÷3=6組…2匹 だから、その二匹目は、えーとエゾリスの次だから、アカリスさ」と、泣き止んだ子供は鼻高々。
「ネコの人形じゃあこんな問題もちょっと無理だろうけどネ」

「ウ
、アノ、でもその時は二十匹目はハイイロリスだったんだけど……」と青ネコ。

「変じゃないか! エゾリスアカリスシマリス、の順だって言ってたじゃないか、ハイイロリスなんか出てこなかったゾ!」

「ウ
、でも十二匹目からハイイロリスが並び始めたからネ。それで十三匹目は、確かキタリス……、十三匹目は太ったシマリスで、十五匹目はキノコをしょったアカリス、そして……」

「ウルサイやい! そんなのズルイゾ! ウソつき! 泣いてやる! エンエン、シクシク、キーキーキーッ……」

「ウルサイね。余計な話をするからだヨ」と赤ネコ。
「……ウン……」と青ネコはリボンの端を気にしていじりだした。
「そうだ、ちょっとイイ考えが浮かんだから外へ出よう」と赤ネコは青ネコに言
った。





 

二匹は花の中を泳いでいた。 「イイネ」
              「ウ


いつまでも泳いで行った。  「とってもイイネ」
              「ウ


二人は立派なナツシロギクの株の前で立ち止まった。
左手には名前の定まらない可愛い黄色の花の群れ。

青ネコは黄色の花を、赤ネコは白いナツシロギクを集めている。
黄色の中に青、真っ白に赤がくっきりと目立っていた。

空はこれ以上文句のつけようのないほど真っ青で、見上げるほどにぐんぐん濃くなってゆく。



「ヤレヤレ」穴のふちで赤ネコは空を見上げる。「全くいい天気だ」

それでも、湧き上がる地平の雲はその高度を上げた。
そしてその雲の後ろに、青と灰色を混ぜた重そうな雲が隠れていた。
北よりの風が弱く吹いてきて、赤ネコと青ネコの頬を撫でていった。

青ネコはリボンのほつれが広がっていくのに気をとられている。
いじればいじるほどほつれていく。

「行く?」と赤ネコ。




「ウン」と青ネコ。

そうと決まれば眼鏡(グラス)をかけて出発の合図だ。赤ネコはバイクにまたがりエンジンをかける。

ブルルルル……。青ネコはリボンをいじりながらサイドカーに乗り込む。

さあ行こう、出発だ!西へ向かって、あの地平の雲を突き抜けて。
エンジン快調。さあまたブッ飛ばせ。ブルルン、ブルルン、ブルルルルン……。

二匹はアッという間に走り去った。


ヤンのパペットショー

ネコのヤンと愉快な仲間たち・町田純の世界