ボクたちネコのお人形のコンビ

追跡 (続き)

ド、ド、トトトト、トト……ト。そこで突然エンジン不調。仕方ない、ひとまず停車だ。

こうして三匹は思いがけない休息を手に入れた。
でも赤ネコはマシンの調整に忙しい。青ネコは窮屈な座席からやっと解放されて、黄色のリボンをいじりながらそこいらをほっつき歩く。一方モグラはサイドカーの中でまだションボリ。思い出すのはコツコツと貯めたミミズの箱。

「……何か聞こえる」青ネコがリボンをいじりながら遠くを見つめる。

「ほら、何か聞こえる……」
「エ?」と赤ネコ。

一瞬、満月が顔を出す。南西の方角だ。何もかもが深いシルエットを作り出す。
その中で、影絵のように、地平の手前に一台のマシーンが浮かび上がる。
「ホラ、あそこだ、やっぱりバイクだ」と赤ネコ。

「オヤ、あれはカラスの影だ」
「エ? カラス?」

と、次の瞬間、そのカラスらしいシルエットはマシーンのシルエットに跳び移り、エンジン音を真夜中の地平にとどろかせた。ヘッドランプから光が放たれる。そして、片方の翼で小箱を抱え込み、残りの翼でハンドルを握りしめて、黒光りする金属の機械をスタートさせた。

「フン、ワタリガラスだな」と自分たちのバイクにピタピタと赤ネコは向かう。
「フウン」と青ネコもピタピタと続く。
ズドドドド……。エンジンは快調だ。風防眼鏡をかけて、さあ出発だ。
こうして再び追跡劇が始まった。地平を這うヘッドランプの光線を、もう一つのヘッドランプが追いかける。

「困ったナ」と赤ネコがつぶやく。

三人は標的を失った。
ドドトトトト……ト、ト。森の入り口で赤ネコはマシーンのエンジンを切った。

「ひとまず休憩だ。森の中は真っ暗で月の光もあまり通さないし、ちょっと進むのは無理だからネ」

そうと決まったら焚き火の準備だ。三匹は小枝を拾う。
パチパチと音をたて、火の粉がオレンジの光を点滅させて夜空に消える。

モグラは肩掛けカバンから”地下生活者の手記”を取り出して、続きを読み始めた。

青ネコは火を見つめながら、ウツラウツラ。赤ネコは仰向けに、じっと空を見つめたまま。
そしてモグラは、静かに頁をめくる。

灰に埋もれた残り火がどうにか息をつく時、乳白色の霧が地表をおおっていた。
まだ、陽は上っていないのだろう、目の前の森は濃い灰色に沈んでいる。

赤ネコがエンジンを吹かす。
バイクの周りの霧が激しく動く。
青ネコは黙ってサイドカーに乗り込む。
さあ、出発だ!
目の前に草地が広がり、黒い針葉樹林は両翼に後退していた。
左右の森がぐんぐん遠ざかっていく。
モグラが、抱えていた”地下生活者の手記”を空に向かって思いっきり放り投げた。

今、目の前に横たわるのは、涯のないなだらかな草原だ。

         三匹は無言だった。
そして、そのゆるやかな草原の起伏を、秋の風が一人遊んでいた。

追跡は?
ウン、もうイイヨ