ネコのお人形コンビ　草原の穴　その1

ボクたちネコのお人形コンビ

草原の穴その1

(人形制作・撮影・インスタレーション Mariko Machida、テキスト Jun Machida)

ある日の夕刻、ボクらはブリヤン草の茂った広大な原野をつっ走っていた。

緩やかな起伏を越えたとき、ハンドルを握る赤ネコが言った。
「左前方に大きな穴！」

青ネコはサイドカーから降りて穴に近づいた。

赤ネコもバイクを降りる。
とたんに草原を渡る風が心地よく頬をなでる。

「オーイ、中に何かいるのかーい？」
穴の底に向かって青ネコは叫んだ。

赤ネコは立ったまま、陽が沈んだばかりの地平線を背にして考えごとをしていた。

「アノー、だれか落ちたりしているのかナー」
青ネコがまた叫んだ。

「いるヨー、ありふ……、……グラだ……」

「オーイ、だれかいるのかナー」
今度は赤ネコが穴の底に呼びかけた。

「いるヨー、……ふれた、ただのモグ……ヨー」

「ありふれた、ただのモグラだ！」

「……、ソーか！　工事現場には梯子(はしご)があるヨ！」

それっと、青ネコはサイドカーに乗り込み、
赤ネコはバイクにまたがった。

二人とも眼鏡をつけて、さあ出発。

ブリヤン草の茂った夜の原をぶっ飛ばせ。

デコボコなんてへっちゃらさ。

ほら、もう工事現場だ。
向こうにおあつらえ向きの梯子。

二人がかりで梯子をたたむと、サイドカーに載せた。

梯子付きのサイドカーが夜の街を一台行進する。

ボクたちネコのお人形コンビ、威風堂々の行進だ。　

そして、とうとう戻ってきた、草原の穴だ。

スルスル降ろせ、ゆっくり降ろせ、さあさあ梯子の出番だ。

「ボクたちネコのお人形、よ、ろ、し、く」
「こちらこそ」

「それで、どうしたの？」
「夢中になって堀りすぎちゃったんです」

さて、どうやって助ければいいんだ??

「あしたまた来て考えよう」
「ウン」
ボクらの意見はあっさりと一致した。

ソロソロ登れ、夜の梯子段。
地上に出た二人は大きく深呼吸する。

赤ネコが風防眼鏡をキリリとかける。
それが出発の合図だ。
ブルルルル………、エンジンが静かに振動する。

青ネコは穴と梯子と、真夜中の草原を見渡している。
突然、ヘッドライトが点る。
さやさやと揺れる草がまぶしそうに浮かび上がる。

翌日の早朝、朝靄の中で響くマシーンの音。

ブルンブルン、穴の前でピタリと止まる。

朝靄に立つ二人。青と赤は乳白色に溶けて、薄いピンクと淡いブルー。
ピタピタと、穴と梯子に近づく。

「オーイ、ありふれたモグラく～ん」
「………」

「ウーン、いないナー。どうしたんだろう」

「アッ、そーか、……梯子…登って出たんだヨ…」