夏の終わりのさわやかな夕暮れ、一瞬、家の中まで草の匂いが感じられた。
『ああ夏が本当に終わってしまうんだ。』という時だった。
その夜、ボクはクリスマスの夢を見た。
大地一面、夜の星座におおわれて、草原の中央に子供の樅の木が一本
生えている。時折やさしい風が吹いてきて、草が次々と樅の木を目指して
波打ち、樅の木の先端もかすかに揺れる。
ボクは、ここにクリスマスの飾りを付けようと決心した。
何日かかけて家に戻り、また何日もかけてボクはまたここに立っていた。
銀色の月や星の入ったバスケットを抱えて。
その晩はことに星座が美しかった。
地平線から地平線へ余すところなく星で埋め尽くされていた。
ボクの星は銀紙で出来ていた。ボクの月も銀紙で出来ていた。
背を伸ばして1つ1つ付けていく。微かな風に1つ1つが揺らぐ。
ボクの背丈は子供の樅の木より少し低かった。
思い切り体を伸ばして、一番上には月を飾った。
大地の涯から涯まで草原が続き、その中にあるのはボクのツリーのみ。
草原のクリスマスの祝祭は、一本の小さな樅の木を中心に、大地全体に
拡がっていく。それはちょうど樅の木を目指して吹いた風が、樅の木に
祝福を受け、ゆっくりゆっくり逆流するかのようだった。