2. 'Tamaas' Samir Joubran
 
試聴 (3.8MB mp3)
パレスチナの若き兄弟、サミール・ジュブランとウィサーム・ジュブランのウードのデュオが出た。(ウードはリュートや琵琶の原型でもある、アラブの弦楽器)

この cover の写真の少年は、スケボーで遊んでいるのではない。
パレスチナ自治区ガザの海岸を歩いているのだ。
家族のもとに帰る?怪我をして病院にいる兄に会いに?おばさんの所に急ぎの用?

占領軍イスラエルが自治区を封鎖するのは、しょっちゅうの事。
そんな中でも移動しなければならない人々は、歩きにくい砂浜を行く。
少年の後ろには荷馬車、その後ろには車が、車輪を砂に取られながら進んでくる。
せっかく収穫したオレンジを腐らせるわけにはいかない。

最初、この写真に違和感を覚えた。アメリカの少年が遊んでいるように見えたから。
よく見ると、ガザの海岸を歩くパレスチナの少年。
でも、伝統音楽のcover に”今”を伝える写真? 
この写真を使わざるを得ない思いが、演奏者と制作者にあったに違いないと思った。

聴いてみて、写真のメッセージが、音楽のメッセージそのものであることが分かった。

イスラエルによる理不尽な占領と迫害そして虐殺。その苦しみ、言い様のない悲しみ。泣き叫ぶのでもなく、喚き立てるのでもなく、優しく典雅なウードの音は息をのむほど美しく、秘めた情熱と張りつめた悲しみはあくまでも静謐である。

かつて、迫害され、ゲットー閉じ込められ、虐殺されたユダヤの人々は、様々な美しい音楽を作り出し、そして、決して滅ぼされることはなかった。

今、迫害を受け、巨大な壁に囲まれ、虐殺されているパレスチナの人々も、これらの素晴らしい音楽とともに、決して滅ぼされはしない。

ジュブラン兄弟は、現在イスラエルの町となっているナザレ出身。
つまり、父祖の地がイスラエルの領内となり、逃げ出さなかった人々はイスラエル国籍を持つことになった。
二流のイスラエル国民として。難民となったり、パレスチナ自治区でイスラエル占領下に暮らす人々とは、同胞ながら複雑な関係にある。

この辺の事情は、同じナザレ出身のエリア・スレイマン監督の映画「D.I.」を見ると良く分かる。 サウンドトラックは、アラブの往年の大歌手から、バングラディッシュやブラジルのテクノやクラブミュージックなどなど。

笑いの爆弾」というコピーで公開されたが、笑うどころではなかった。ひきつった笑いを笑えるのは、自らを笑うしかない当事者だけかもしれない。

それでも、あえて、D.I.を見て、笑え!
そして、ジュブラン兄弟を聴いて、泣け!

Text by Mariko Machida 2003/8


http://samirjoubran.calabashmusic.com/

映画「D.I.」のサウンドトラックCD

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