〈6〉
 午後にはもうコーカサスの山々を越えて、夕方にはオルジョニキーゼ(現ウラジカフカス)に着く。
 オルジョニキーゼは、夢の中の町だった。
 ホテルのすぐ側、川沿いにカラフルな積み木細工のような可愛いモスクが建っている。橋を渡ると、小さなメリーゴーランドのあるおもちゃ箱のような遊園地。少し行くと、頭に白いスカーフを被った魔法使いのようなおばあさんが、真っ赤なカーディガンを着て杖をついて歩いてくる。
 もう少し行くと町の中心に出る。広い通りの両側には、2階か3階建て石造りの建物が並んでいる。その両側に歩道。そして車の通っていない車道。車道と車道に挟まれて中央は広い遊歩道になっている。遊歩道は並木に縁取られ、所々にベンチが置かれている。なんとも優雅な大通りだ。帝政時代そのままの雰囲気がする。並木の向こう側を、音もなく市電が通り過ぎていった。音はしたのかもしれない。ただ、この町には音の記憶がない。少し熱っぽい体で歩く街は、夢遊病の街のようだった。そういえば、微熱があったのは純だったか?私だったか? それとも、あれは夕靄のかかったオルジョニキーゼの町が持つ微熱だったのだろうか。
川沿いにあるモスク
遊園地
魔法使いのおばあさん?
街の中心にある古い建物
大通りの真ん中にある遊歩道
〈7〉に続く